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神戸地方裁判所 昭和41年(わ)1503号 判決 1967年7月11日

被告人 羽石昭 羽石フサエ

主文

被告人羽石昭を懲役一年六月及び罰金八万円に

被告人羽石フサエを懲役六月及び罰金八万円に

それぞれ処する。

この罰金を完納することができないときは金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人らをそれぞれ労役場に留置する。

被告人羽石フサエに対しこの裁判の確定した日から三年間、被告人羽石昭に対しこの裁判の確定した日から五年間それぞれその懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

第一、被告人両名は、神戸市葺合区布引町三丁目七五番地において旅館「加賀屋」を経営しているものであるが、共謀のうえ、昭和四〇年八月中頃から同四一年九月一五日頃までの間、別紙一覧表記載のとおり、売春婦吉田浩子等が不特定の客である佐原健一等多数の客を相手方として売春するに際し、その情を知りながら、同人等より一〇〇円乃至二〇〇円の部屋代を徴して右旅館の客室をそれぞれ貸与し、もつて売春を行なう場所を提供することを業とし、

第二、被告人羽石昭は、山口組系暴力団松本組組長松本広文の舎弟分となつていたものであるが、

(一)  昭和四〇年五月二九日から同年八月一九日までの間に前後六四日に亘り、松本広文が神戸市長田区西山町二丁目二九番地の同人方を連絡場所にして、神戸市葺合区八雲通四丁目六番地大安亭市場内及び同市生田区栄町四丁日平和ビル内において、金子順次他一二名を相手客として、当日行われるプロ野球及び全国高校野球夏季大会の各試合についてチームの組み合わせに応じてそれぞれハンデイをつけてチームの勝負に金銭を賭ける申込をさせ、負けチームに賭けた相手客からは賭金を徴収し勝ちチームに賭けた相手客に対しては賭金の九割を支払うところのいわゆる「野球賭博」と称する賭博を行うに際し、各試合毎のハンデイの連絡、相手客の申込の連絡、賭金の授受の取次等を行つて右松本の犯行を容易にしてこれを幇助し、

(二)  昭和四一年四月二七日から同年七月一七日までの間に前後一八日に亘り、神戸市葺合区布引町三丁目七五番地の自宅を連絡場所にして、同市兵庫区船大工町所在の神戸中央卸売市場内に自ら赴いて同所で安井久夫他一名を相手客として、また羽石清に依頼して同人に同市葺合区琴緒町五丁目オリオンパチンコ店等に赴かせそこで川本昭一他四名を相手客として、さらにまた宿岡清正に依頼して同人に同市同区八雲通四丁目二番地大安亭市場内等に赴かせそこで玉出正美他二三名を相手客として、当日行われるプロ野球の各試合についてチームの組み合わせに応じてそれぞれハンデイをつけてチームの勝負に金銭を賭ける申込を自ら直接受付け或は前記羽石清または宿岡清正に受付けさせ、負けチームに賭けた相手客からは賭金を徴収し勝ちチームに賭けた相手客に対しては賭金の九割を支払うところのいわゆる「野球賭博」と称する賭博を行い、

もつてそれぞれ常習として賭博幇助及び賭博の罪を犯した。

(証拠)<省略>

(本位的訴因事実である賭博開張図利罪を認定しない理由)

検察官は、判示第二(一)の常習賭博幇助及び第二(二)常習賭博の各罪の本位的訴因事実として、昭和四一年八月二〇日付起訴状記載第一、第二の各控訴事実並びに同年一二月一日付起訴状記載第一、第二の各公訴事実のとおり、賭博開張図利罪を主張するが、当裁判所はこの本位的訴因事実を認定しないので、その理由を以下に述べる。

賭博開張図利罪の構成要件である「賭博場を開張する」とは、「賭博を行う場所を自ら主宰して設営し賭博者を誘引する」ことと解するのが相当であるところ、本件のいわゆる「野球賭博」と称する賭博行為は、もつぱら相手客の各現在地に赴いて賭博の申込を受付けるものであつて、事務処理上の便宜から一定の連絡場所は設定してあつても、これはいわゆる賭博者の集来を目的とする場所ではないから、刑法一八六条二項の「賭博場」には当らないものであることは明白であり、したがつて、その犯行の態様に照らし、本件のいわゆる「野球賭博」は、賭博者の集来を目的として賭博を行う場所を設営したものということはとうていできない。

また、賭博開張図利罪が、賭徒結合図利罪と並んで、他の賭博の罪と区別されて特に重い処罰の対象となるのは、自ら財物を喪失する危険を負担することなしにもつぱら他人の行う賭博を開催して利益を図る点においてより強度の違法性が認められるからであると解されている。しかるに、本件の「野球賭博」と称する賭博は、各試合のハンデイを調整して双方のチームに対する賭金額がなるべく合致するように計りはするものの、一方のチームに対する賭金額に制限されることなしに他方のチームに対する賭けの申込に応ずるものであつて、たとえ双方のチームに対する各賭金額が合致しなくとも無条件に賭博は成立し約束にしたがつた賭金が支払われるものであり、したがつて双方チームに対する賭金額の不一致による危険負担は、結局、野球賭博の主宰者自らが一手に引受けているものであり、この自ら負担しなければならない危険をできるだけ少くするためにいわば営業政策上ハンデイの調整を行つているにすぎないものと認むべきであるから、寧ろ、自らが相手客の申込む賭博の相手になつて賭博行為を行つているものと解するのが相当であり、この点においても、賭博開張図利罪に当るものとは認めえないのである。

(適条)

被告人両名の判示第一の所為に対し、刑法六〇条、売春防止法一一条二項

被告人羽石昭の判示第二の所為に対し、その(一)の点につき、刑法六五条二項六二条一項一八六条一項、その(二)の点につき、刑法一八六条一項(以上包括一罪につき、重い(二)の刑法一八六条一項の刑にしたがう)

被告人羽石昭につき併合加重 刑法四五条前段四七条本文一〇条四七条但書(重い判示第一の罪の懲役刑に加重する)刑法四八条一項

被告人両名に対し労役場留置 刑法一八条

被告人両名に対し懲役刑執行猶予 刑法二五条一項

(裁判官 金沢英一)

別紙一覧表<省略>

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